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増井真也日記
田村和也雑想設計室雑感
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田村和也雑想

2018/01/17

受け継がれる家 -4-

その家は、町田分室の事務所から徒歩で10分もかからないところにあった。
現場に出ていない時、ほぼ毎日と言ってよいほどお昼の弁当を買いに出かけるスーパーから道を挟んだ向かい側の路地を入っていったところに、どっしりとした瓦屋根をのせた民家が建っていた。
しっかりと手の入れられた建物南側の庭、東側には一体何年たっているのだろうと思わせるほどの大きな欅の木が茂っていた。

町田分室のある鶴川という土地は、白須次郎・正子夫婦が戦時中に避難し、自給自足の農民生活をしていた武相荘と呼ばれる農家があることからも察するに、ずっと里山のような場所だったのだろう。
今では、駅前の街道にはチェーン店の飲食店が並び、宅地開発が所々で行われ、建売住宅が軒を並べている。
私が町田に来てからも、事務所の前の道を挟んで向かい側にあった畑は小さく分割された宅地に造成され、まるでマッチ箱のような建売住宅が建ってしまった。
それでも、車で近所を走っていると、ふっと時間をさかのぼったような場所が現れることがある。
そして、事務所近くの路地を一歩入ったこんなところにも。

待ち合わせ時間よりも早く来ていた男性は、窓を開け家に風を通していた。
どうやら今はだれも住んでいないらしい。
「はじめまして。」
面と向かって話すのは初めてである。
「まあ、適当に見てよ。どこに入ってもかまわないから。」
「わかりました。まずはざっと建物を見させていただきます。」

今日は本格的な調査で来たわけではない。
大体、どのような建物か確認し、どんな計画なのかを伺いにきた。
しかし、本格的な調査でないといっても、確認しておかなければならないことはある。
床下をのぞき、床下は乾燥しているかどうか、周辺の木材は傷んでいないかどうか、基礎の立ち上がりに蟻道と呼ばれるシロアリが家に入った跡はないか、雨漏りはないか。
あとは、室内の床が大きく傾いていないか、内部の造作の作り具合などをチェックする。
内部の造作が丁寧に作られているかで、その家にかけた大工さんの思いが伝わってくる。
良い仕事をしている人は、見えるところだけではなく、目に見えない重要な内部も手を抜くことなく丁寧に作っているものである。

「どう?」
「良い建物ですね。経年変化以上に傷んでいる感じも受けないですし、とても丁寧に作られている雰囲気が伝わってきます。まだ一見しただけですが、十分残す価値のある建物だと思います。」
「いくらくらいでリフォーム出来そう?
ますいいさんはローコストが得意だって、先日、女性の方が言ってたよ。
前に堤さんにも話したけど、Z工務店に予算を伝えて、それでできるくらいのリフォームプランを出してって言ったのに、出てきた見積もりは1.5倍くらいの金額だったんだよ。
俺は予算をきちんと伝えたのに・・・」
とても信じられないといった男性の口調であった。

その予算は、私たちが普段建てている30坪程度の新築住宅の半分くらいの金額であった。
もちろんリフォームとしては決して安い金額ではない。
しかし、リフォームの予算組ほど難しいものはない。
耐震改修をして、断熱補強をして、水回りを新しくして、使いやすいようにプランニングを変更して、などとやっていくとあっという間に新築住宅を建てられるのではないかというような金額になってしまう。
この家に関して言えば、リフォームをしなくても住むことはできる。
要するに、手を付ける度合いによって0円~新築を建てることのできるくらいの費用まで、その予算は設定次第である。
要はどこまで手を付けるかの線引きを、明確な基準をもって決めていかなければいけない。
もちろんそれは設計者だけで決められるものではない。
住み手の予算や、今後の生活、ライフスタイルを含め、お互いに納得の上で一つ一つの仕様やリフォーム箇所を決めてゆく作業になる。
Z工務店の出した見積もりは、Z工務店なりの性能や機能を踏まえたうえで、ここまでやれば納得していただけるリフォームになりますよという一つの目安だったはずである。
それが、予算をオーバーしてしまっただけで、おそらく、提案する側からすると、そこに打算や悪気はなかったと思う。
もしかすると同じ条件でやれば、私も同じような見積もりを作った可能性だって十分にあると思う。

「ところで、リフォームしてNさんが住むんですか?」
「いや、俺は家を持っている。」
「えっ、じゃ、誰が住むんですか?」
「この家は俺の実家なの。
 今は空き家になっているから、リフォームして娘夫婦に住んでもらおうかと。」

どんな人が住むか、何を望まれているのかわからないのに建物の提案は、私にはできない。
そもそも娘さんご夫婦は、このリフォームを望んでいるのだろうか。
私たちが提案しているような家づくりに一緒に参加していただけるような人たちなのだろうか。
不安が一気に募ってきた。

「それでは、ご提案の前に娘さんご夫婦に一度合わせてください。
 お話をして、ご要望を伺ったうえで、ご予算も含めて提案させていただきます。」
しばらく間があって
「それはそうだな。今度、娘夫婦を事務所に連れて行くよ。」
Nさんは言った。
「それと、うちのローコストは理由もなく安価なわけではありませんよ。
 現場で一緒にセルフビルドで体を動かしてもらわないと。」
笑いながら、冗談交じりに牽制を入れた。

僕はまだこの男性がどんな人なのかつかめないでいた。
初めて事務所を訪れた時の印象が強く残っているのかもしれない。

「それもいいんじゃないの。コストを抑えてやりたいんだから仕方ないよね。」
男性も笑いながら答えた。

つづく。

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