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増井真也日記

2020/09/09

都市に建つ日本の家は小さい。そして高い。これはどうすることもできない事実である。でもそんな都市であっても、豊かに暮らそうという強い意志を持つ人々はたくさんいる。 
しかし、そういうことを考える人にとって、現在の社会の状況は決して甘くはない。経済尺度が何よりも優先される時代だからこそ、大きなビジネスになるマンションディベロッパーや、分譲業者の広告はいやでも目に入る。
一方、「自由に家造りしたい」、「豊かな家を造りたい」という人に有益な情報はなかなか手に入らない。土地を探すにしても、決められた住宅会社で建てなければいけない「建築条件付き」の物件がほとんどで、そうした縛りのない敷地は、長い時間をかけて探さなければいけないのが現状だ。また、家造りについて建築家に相談しようにも、適した人がどこにいるのかよくわからない。メディアに取り上げられることの少ない「工務店」という存在に至っては、もっとよくわからない状況である。

それならば少しでも自分でできることをしたい、セルフビルドやDIYをやってみたいと思っても、材料はいったいどこで買えばよいのだろうか。正しいやり方はいったい誰が教えてくれるのだろう。ホームセンターで材料を購入することもできるけれども、個人で使う程度の量では割高だ。建材によっては驚くほど高い値段になってしまうこともある。

そんな現実はいったん置いておいて、もしも、自分の家を自分で作るとしたら...。まず必要なのは、地盤の調査と改良、その次に家の基礎をつくる工事、そして骨組みとなるプレカット木材の購入、その他の材木の購入。それらの木材を施工する大工工事、もちろんサッシや木製建具、ガラスも必要だし、内外の壁や屋根を施工するための左官、内装、屋根、板金、タイルの工事、電気・ガス・水道工事などの設備工事、そして建物の周りの外構工事なども発生する。

これらの工事を自由に組み立てながら、自分らしい家を作ることができたら、どんなに楽しいことだろう。それは、自分のイメージを現実に置き換える行為であり、子どものころに興じたプラモデルを実物大でつくるようなわくわくする気持ちを味わえるはずだ。ただ、一昔前なら、自分の町にいるそれらの職の担い手たちに直接話をしながら、家を作ることは可能だったけれど、いまではそういう人たちがどこにいるのかもわからなくなってしまった。

実際、僕だって2000年に独立した時には、知り合いの建設会社に紹介してもらった職人さん以外に頼める人はいなかった。腕のよい大工がいるとうわさに聞いて、秩父まで行ってみてもあっさり断られ、タウンページに掲載されている大工さんに会いに行ったら笑われた。結局、材木屋さんに紹介してもらった大工さんだけが、僕からの仕事を請け負ってくれた。工事代金の不払いなどが多い世知辛い世の中であるが故、見ず知らずの人からの依頼を快く受けてくれる人などそうそういるはずもなく、だからこそ見ず知らずの人からの受注をするための宣伝・広報などもするはずがないのである。

要するに、自由な家づくりをしようにも情報が全くない。表面的なところまでインターネットで調べられても、奥深く調べようとするとすぐに壁にぶつかってしまうのだ。僕はこれまで約20年間、このような困難な状況にもめげずに建売住宅でもハウスメーカーの住宅でも満足できない自分自身の家づくりを行いたいと強く願う人々と向き合ってきた。小さな土地の中で許されるあれやこれやの工夫を施し、ただでさえ高い建築コストを少しでも安くするにはどうしたらよいか。考え得るあらゆる方策を重ねて、時には一緒に作業をしながら、200軒以上の家づくりにかかわってきた。そしてこれからもそれは続いていくはずだ。
 
住宅産業はこれから確実に衰退していく。人口も減少する。建築の寿命が延びて、住まい手のいないまま、取り壊されることもなく、空き家は増えていく一方だ。そんな状況が進行するうち、大資本がこの住宅産業を担う時代も終わってしまうかもしれない。余った土地に道路を敷設し、分譲して販売すれば利益が出る、という時代も確実に終わる。ハウスメーカーが軒を連ねる展示場が減少し、建て売りもこれまでの様には売り出されることがなくなっていく。つまり、家づくりを取り巻く環境は、ますます変化し、これまでの「常識」が通じず、わかりにくくなることが予想される。

でも自由な家を造ろうという人々は決していなくはならないと思う。だからこそ、住宅業界は再構築される必要がある。昔の棟梁のように、建築の知識を深く所有し、建て主の要望に合わせてそれを引き出し、建て主と一緒に建築を創り上げる、そういうことのできる「建築家」「工務店」が、新しい家づくりの体制を作っていくことが必要なのだ。結果、日本の家づくりがもっと自由になるような気がするのである。

202009

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