| 03 さんかくの家
03-2 セルフビルドを上手に取り入れる
さんかくの家では、多くのセルフビルドを取り入れた。壁の石灰クリームはクライアントとその友人達の手によって塗られた。床や家具、建具などの木部にはオスモというドイツのメーカーのウッドワックスが塗装されているが、これもセルフビルドによるものである。玄関の扉の引き手は私が彫刻刀で削りだした。私がやったのではセルフビルドとはいわないかもしれないが、建具職人さんに頼んだのではいくらかかるかわからないということで、手作りで作ったものを無料でおいてきたのだから、れっきとしたセルフビルドの仲間である。そのほかにも、塗装工事などはほとんどの部分をセルフビルドで行っている。これによって、だいぶコストダウンが成されたことはいうまでも無いが、それにもまして忘れがたい思い出にもなっているだろう。

(さんかくの家玄関ホール)
(さんかくの家2階リビング-壁の石灰クリーム・しな合板のオスモ塗装はすべてセルフビルドである)
ここで、石灰クリームをセルフビルドで施工した場合どれくらいコストを抑えることが出来るかを説明しよう。
たとえば300平米の壁を職人さんに依頼して仕上げたとする。職人さんのuあたりの単価が3000円程度なので90万円の工事だ。石灰クリームの材料代が一缶8000円程度。一缶で約10平米塗ることができるので、300平米だと30缶必要になる。30缶の材料代が24万円で、さらにパテやジョイントテープなどで3万円くらい必要だとすると、材料だけの予算は27万円ということになる。
すべての作業を自分でやるのは大変なこと。職人さんを4人依頼すると、10万円程度の予算が必要だ。これを足して37万円。セルフビルドを行うことで、50万円以上のコストダウンができる計算だ。ちなみに平米あたりの単価は1233円であるので、ビニルクロスの1000シリーズと同等といったところだろうか。ビニルクロスの値段で石灰クリームができる、これがセルフビルドの良いところである。

(さんかくの家階段見上げ-手すり・筋交いなどの鉄はすべて手作り)
さらに、これにも増してよいところ、それは自分でメンテナンスができるようになるということだろう。壁は使っているうちにどうしても汚れてくる。大規模な改修工事は職人さんに依頼するとしても日々の小さな汚れまでいちいち職人さんを呼んでいたのではいくらかかるかわからない。しかし、もしそれが自分で塗った壁だったら、ある程度のことは自分でできる。その自分でできる気になってしまうところが重要だと思う。自然素材を使用すれば日々のメンテナンスは重要だ。木を使えば塗装がいる。一年に一度は塗らなければ自然素材の木は腐ってしまう。でもセルフビルドをやったことの無い人は毎年塗装職人を呼ぶことになってしまうだろう。やったことがある、それが重要なのだ。

(さんかくの家セルフビルド-友人が多数参加した)
「自分の家を自分で作る。」素人がこれを全て実現することはなかなか出来ることではないが、
頭を使って考えることは出来るはずである。
家作りというジンセイで一度しかない大仕事を、まるで車を買うように考えてしまうことが当たり前の世の中で、自分らしく暮らすための場所を自分自身で考えることはすばらしいことではないか
と思う。
その暮らしの場を作るにあたって、色を塗る、床を貼る、人それぞれ出来ることのレベルは違うが出来ることは自分でやる。それもまたすばらしいこと。
行為としての価値以外にもコスト面での価値も大きい。企画化されていない家作りに際し、最も大きなコストは人件費だ。日本人は人件費が高い。でも職人さんの生活を考えればそれも仕方がないことだと思う。すくなくとも腕の良い、気立ての良い、日本人の職人さんに丁寧に家を作って欲しいと思う場合には、それなりの給料を払う必要がある。そんな状況で、あと100万円コストダウンしなければ!!そんなときこそセルフビルドは大きな力を発揮する。
しかし、セルフビルドの簡単なイメージだけが先行し導入してみても、予想外に作業が大変で実はまったく出来なかったという最悪の結果もありうる。
導入の前には作業内容や必要な時間などよく説明し、施主の理解を得ることが非常に大切だと思う。そのためにも実際に作業をやった経験のある人による説明が重要だろう。
また、施工の精度についての許容範囲も施主によって大きな幅がある。セルフビルドで出来る精度をよく説明し、理解を得ることも重要だと思う。
このように現場にセルフビルドを取り入れるにはそれなりのコツが必要になってくる。素人でも出来る作業にするためには、「収まりを簡単にする」「作業手順を区分けする」などの設計上の注意点も重要である。たとえば漆喰を塗る場合に、窓枠を巻き込みのデザインを採用すると、その角の部分の仕上げに非常に苦労する。そのような場合には窓枠をちりを確保して取りつけることで、角の施工はなくすことが出来る。
また、塗装のほうが簡単だからということで塗装を採用すると、パテ処理に予想以上の手間を必要とする。塗装工事は養生4割・下地処理4割・仕上げの塗装は2割が原則で、ペンキを塗る作業自体は簡単だがそれまでに多くの作業を要する。それであれば漆喰のほうが簡単だったという場合もあるので注意が必要なのだ。

(三鷹のリフォーム-天井板をあらかじめ塗装している)
上記のような設計段階のコツだけでなく、現場管理においても同じようなことが言える。たとえば、天井板を塗装する場合、板を張る前に塗装するほうが圧倒的に楽である。であれば、作業に入る前に現場に材料を搬入しセルフビルドの塗装をさせてあげる段取りを組まなければ施主は作業をすることが出来ない。貼ってしまった天井板をさして、「どうぞ塗ってください」ではきれいに塗れるはずがない。それなりの段取りをしてあげることが工務店としての協力だろう。
また、作業方法を自ら調査し実践できる施主もそうはいない。基本的な作業方法はアドバイスし、時には指導のための職人さんを手配するなどしてあげることも重要である。壁の仕上げをセルフビルドで行う場合は、その作業が終わるまで設備器具やスイッチなどを取り付けることが出来ない。便器の付いている裏側の壁の塗装を行うことを想像すれば、それが不可能なことは容易に想像できるだろう。
セルフビルドのある現場の場合には最低でも1週間ほどの作業期間を確保し、施主にその期限内に作業してもらうことが重要である。期限内に行う作業と引渡し後に行う作業を適切に分別してあげることも重要だ。ゆっくり時間をかけて行う作業、工事期限内に行う作業、これらをしっかり区別しないと現場は混乱してしまう。
かくして、さんかくの家では無事セルフビルドによる作業が終了した。全ての作業が終了した充実感は何にも変えられないものがあった。
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